関口 亮子

■なぜ訪問看護師になったのですか?

心不全患者が馴染んだ生活と療養行動との折り合いをつけるための看護支援について研究する中で、患者さんを「生活者」として捉えることを学びました。訪問看護は、患者さんやその家族が病気や障害を抱えながらも「生活者」としてその人らしく日々過ごすことを支援する要の役割だと思い、訪問看護師になろうと思いました。

実際に訪問看護を経験して、多様な疾患ステージ・生活背景・価値観を持つ患者さんや家族とコミュニケーションをとりながら、「その方らしく活きるために看護師である私に何ができるのか」と試行錯誤で看護を考える過程はとてもエキサイティングだと感じています。

 

■ななーるの教育担当として大切にしていることを教えてください

第一に、ななーるの理念である「生きるを活きるに導く看護」を実践できる力の獲得を教育目標にしています。そのためには、自分の看護実践を意図的に振り返ってその意義を明確化したり、スタッフ同士のカンファレンスで新たな視点を得る機会が大事であると考え、そのような機会づくりを意識しています。

第二に、経験や感覚だけに頼らずエビデンスに基づく看護が実践できる力の育成を目指しています。ななーる内外の各分野のエキスパートによるエビデンスの講義、エビデンスを活用した事例検討会、研究論文やガイドラインを読んで訪問事例にどう活かせるか話し合う抄読会など、エビデンスと実践をつなぐ取り組みをしています。

 

■デベロップメントセンターの研究員として大切にしていることを教えてください

訪問看護の現場の課題を解決するために、研究者と実践者をつないで現場の看護の質を向上できる知見を創出することがデベロップメントセンターの使命です。現場で実践をしているからこそ感じる課題を研究で解決すること、実践者が「あの事例に使えそうだ」「使いやすい」と思えるような実践に根差した知見を生み出すことを大切にしています。

 

■こちらは思い出深い写真と聞きましたがどんな写真ですか?

訪問看護導入時からお看取りまでの3年以上、私がプライマリーとして関わった心不全の患者さんが編まれた毛糸のパンツです。編み物が得意な方でした。心不全末期になりせん妄で大変な時期があり、せん妄症状への対応や家族の介護負担をどう軽減するかをクリニックスタッフと一緒に試行錯誤しました。内服調整で少し症状が落ち着いた際に「これが最後の編み物になる」とご自分で言いながら編んでおられました。ご家族・主治医やクリニック看護師・訪問看護師と在宅チームでタッグを組み、最期まで本人らしく過ごせるよう皆で試行錯誤したことが非常に貴重な経験でした。グリーフケアでお伺いした際にご家族から「私も必要になったらななーるに訪問看護きてほしい」とのお言葉を頂いたことが糧になっています。